障害児をケアする家族のエンパワメントを促進するリモートケアシステムについて
日本の小児医療・在宅移行の現状
日本の小児医療、中でも新生児医療の進歩はめざましく、早期産児や超低出生体重児に対する高度先進医療だけでなく、仮死で生まれた成熟児に対する脳低温療法が標準化されることでも多くの命が救われるようになりました。命は救われたものの、人工呼吸器等の医療的サポートや吸引や経管栄養等の医療的ケアを要する小児が増加し、医療的ケアが必要な19歳以下の子どもは15年間で2倍に増えており、中でも在宅人工呼吸器を要する19歳以下の子どもは15年間で10倍以上に急増しています。
一方、早期退院・在宅移行という国の方針もあり家族が地域資源・社会資源を十分に探せない・活用できないまま医療ケア児を24時間365日抱え込んだ状態で睡眠不足の親・社会から孤立し抑うつ状態の母親・ストレスを抱えるきょうだいたち・疲弊する祖父母、等の実態が示されています。また、児に障害特有の‘育てにくさ’があり、対人関係のトラブルを抱えやすい特徴があることから、社会からの偏見や差別に苦しみ、活用可能な社会資源も限られていることから、母親のみならず家族単位でコミュニティから孤立している現状が明らかになりました。
ケアラーの実態
介護や看病、療育が必要な家族や近親者を無償でサポートする人達のことを‘ケアラー’といいます。社会資源を活用せずに在宅療養を継続することはケアラーにとって過度の負担となります。ケアラーが自分たちの生活を調整し力をつけることを家族エンパワメントといいます。当該家族のエンパワメント促進のためにはケアラーの介護負担感の軽減、社会資源の活用についての有能感、が不可欠であることが示されています。
当該家族を社会的に孤立させずエンパワメントしていくためには、医療ケア児の在宅移行後、なるべく早期に当該児に関わる全ケアラーが、「私的」な空間からアクセスできるリモートケアシステム(具体的には、①家族エンパワメントプログラムが受けられる、②専門職へ個別相談ができる、③同様の悩みを有す立場の類似したケアラー達とおしゃべりや情報交換ができる、等サービスシステムやコミュニティとの繋がりに着目したこれまでにない支援)を導入します。
①家族エンパワメントプログラム
- 週に1回(全4回)のオンラインプログラム
- 専門職(ファシリテーター)常駐
- 自身や家族の生活、ケアの現状を客観的に捉え、将来に向けて、ケア負担や社会資源の活用状況を整えることができます
具体的な内容
- 全4回を通してテキストを使用
- グループワークやホームワークにて、エコマップや生活表を作成
第1回 お子さんとご家族を取り巻く現状を知る
第2回 お子さんとご家族の実際の生活を振り返り、希望する生活を明らかにする
第3回 お子さんとご家族の希望する生活に向けて目標を立てる
第4回 これまでのグループワークを振り返る
②オンライン個別相談
「私的」な空間から個別に気になることをCNS(Certified Nurse Specialist; 専門看護師)ほか、医療・教育・社会福祉の専門職に相談できる場を設けます。24時間365日受け付ける相談内容に応じた専門職者をケア管理センターのスタッフが人選し、日時調整の上、当該専門職者が直接登録者からの相談を受けます。
③SHGおしゃべりピアサロン
- 「母親会」「父親会」「きょうだい会」「祖父母会」などのクラスを定期開催
- 立場を同じくするケアラー達とオンラインでおしゃべり
- 専門職(ファシリテーター)常駐
- 悩みや情報の共有ができます
SHGおしゃべりピアサロンでは既存の親の会やきょうだい会の協力も得ながら、「母親会」「父親会」「きょうだい会」「祖父母会」など立場を同じくするケアラー達とおしゃべりし、悩み相談や情報交換ができる場を設けます。
専門職(※)の皆様へ リモートケアシステムの社会実装にあたってサポーター登録のお願い
リモートケアシステムでは、ケアラーの負担感と困難感を軽減させること、また、ケアラーとかかわる専門職を教育・啓発する目的で、①家族エンパワメントプログラム、②専門職へのオンライン個別相談、③SHGおしゃべりピアサロンの場の提供を柱とした国内初のリモートケアシステムの社会実装を行います。
当リモートケアシステムに関心のあるかたには、Eラーニング研修動画の視聴とテスト受験(5問)後、サポーターとして登録していただき、ケアシステム内での活動をお願いしたいです。
(※)当該児者および当該家族と常日頃からかかわりのある医療職・介護職・教育職・行政の福祉担当者 等
障害と病気のある家族の介護者のためのリモートケアプロジェクト