ごあいさつ

GREETING

筑波大学 発達支援看護学分野では、子どもとその家族の発達を支援する看護を探究すべく様々な研究に取り組んでいます。子どもへ、家族へ、小児医療現場への研究成果の還元を常に頭に据えながら、発達支援看護学の構築を目指しています。当研究室では、地域における家族ケア、外来における小児・家族ケア、院内における小児・家族ケアの3つを主な柱に据えています。

涌水理恵

Rie Wakimizu, PhD, RN

家族ケア3つの柱

柱の1つ目

地域における家族ケア

NICU救命率向上また医療デバイス革命により、在宅移行する子どもの数が増加しています。母親は自責の念が強く、ケア負担は相当であるにも関わらず、ケアを一手に引き受け、心身ともに疲弊する例をよく目耳にします。母親のみならず父親のストレスやワークライフバランス、きょうだい児のチックや問題行動、家族全体に波及します。そこで当研究室では、在宅移行時からの主たる養育者を主とした家族エンパワメントを目指すFEP(Family Empowerment Program)を実践しています。ケア負担軽減、社会資源利用促進を軸とした計4回のプログラムです。レジリエンス高きしなやかな家族の姿を毎回目前にし、運営陣として感動をいただいております。

柱の2つ目

外来における小児・家族ケア

看護師ほかコメディカルスタッフが経験する家族対応の難しさがあります。根底にある医療コンフリクトと過去1年間に受けた暴言、暴力、嫌がらせ等の実態調査(2019)から研修テキストを開発し、Web研修や学会WSで使用しています。外来で医療処置を受ける幼児へのプレパレーションや慢性疾患患児・家族へのトランジション対応についても様々な取り組みを探索中です。HPVワクチン接種に関する研究、小児科外来での医師患者関係に関する研究、在宅重症児患者の小児プライマリケア利用実態調査、オンライン受診に関する実態調査研究などもおこなっています。

柱の3つ目

院内における小児・家族ケア

小児がんをはじめとする長期療養患者の退院後のスムーズな復学また学習再開が難しい現状にあります。背景には治療との兼ね合いで前籍校の学習ペースについていけない、フォロー体制の問題(不慣れ、連携不足)があり、入院初期からの支援体制の確立が求められます。また患児だけでなく長期入院は家族の形態や機能に多大な影響を及ぼします。養育者の面会や治療意思決定に伴う心身の疲弊やワークライフバランスの問題、きょうだい児のストレスや孤独感にどう向き合うかも大きな課題です。様々な看護的探究や看護実践を通して、将来を担う大切な子どもたちとその家族、そして社会に広く貢献していきたいと考えています。このHPで私たちの取り組みを皆様にご覧になっていただければ幸いです。

プロフィール

先天性が多い小児の病気は、本人はもちろん、家族にとっても深刻な問題です。特に、完治が望めず再発や悪化が懸念される小児患者さんを抱えた家族の気苦労は察するに余りあります。患者さんが入院中は、医師や看護師のサポートを受けられますが、退院後や診断がつく前のサポートはどうすればよいのでしょうか。実地調査やトランスレーショナルリサーチに裏付けられた小児家族ケアの実現を目指しています。

一般に看護の対象は、病院または在宅で治療または療養中の患者さんが中心です。しかし患者さんがお子さんの場合、セルフケアが確立されておらず、家族が24時間近く付き添ったり毎晩消灯まで面会したりするケースが多くあります。中には、年端のいかないきょうだいが自宅で夕飯を一人取ったり、祖父母宅に当分の間あずけられたり、といった場合もあります。そのような事情を抱える家族への社会的なサポートは、残念ながら不十分です。しかも、慢性的な病気や障碍をもつお子さんとその家族をめぐる事情はきわめて特殊かつ多様です。私たちは、小児患者の家族の生活実態を質的かつ量的に調査し、根拠に基づく小児家族ケアモデルの開発とケアの実現を目指しています。

たとえば発達障碍児を抱える家庭の事情はどうでしょう。私たちは、外来で「発達障碍」との診断を受けて通院中の障碍児をもつケース350例で調べました。生まれた子どもが発達障碍かもしれないと母親が「気づく」までの平均期間は、生後26.1カ月でした。そのうち70%以上の母親は子どもが3歳未満(約20%は1歳未満)から、わが子に問題があることに気づいていました。母親の葛藤はそこから始まります。懸念を夫や親族と共有できなかったり、障碍児を産んだことに対する罪の意識にさいなまれたりするケースが多いのです。同調査では、最初に外来に相談に来るのは、平均すると生後45.9カ月、最初の診断に至るのは生後67.7カ月でした。最初の気づきから診断に至るまで41.6カ月もの時差があるのです。その間、母親は自分だけで悩み葛藤しつづけます。その数年間の苦悩を考えると、診断確定前から親子の状態を把握し、さりげなく歩み寄って親子支援、家族支援を開始するのが理想だと、私は提唱しています。実際に認定ファシリテーターとしてつくば市、水戸市、神栖市、東京都新宿区などで前向き子育てプログラム(Positive Parenting Program)などを開催しましたが、多くは子どもとの関わりに苦悩する母親からの参加希望でした。

重症児を抱える家族では深刻度が増大します。特に先天性の重症児の場合には、母親の罪の意識がとても強いです。夫やその親族との関係が悪化していることもあります。年の近い上の子が精神的ダメージを受けていることもあります。家族内での助け合いだけでなく、家族を一単位とした社会から家族へのサポートが必要なのです。私たちは10年来、在宅重症児の家族について、患者組織や療育センター、大学病院の外来、行政の障害福祉課などの協力を得て、多くの調査を実施してきました。夜間のケアで幾度も中途覚醒し「朝まで寝たことはないんです」と語る母親、緊急時に車の運転があるからと晩酌をやめた父親、甘えてこなくなったきょうだい児、など主治医にも言えない実話や心情が明かされることも多くあります。

そうした中で、私が特に意識していることがあります。まず、対象家族の「セルフケア機能」(図1)をアセスメントすること。そしてそれをもとに、「家族エンパワメント」(図2)(家族が、健康問題を有する児の養育に向けて自分の生活をコントロールし、家族・サービスシステム・社会などと協働する状態または能力)を掌握した上で、必要に応じて介入の糸口を模索することです。家族の「セルフケア機能」や「エンパワメント」の過程を把握できれば、適切なサポートの検討や提供がしやすくなります。今後、親へのレスパイト(親の精神的疲労を軽減するための一時的なケアの代替)、きょうだい児への心理教育的アプローチなど、社会的サポート態勢を充実させていかなければなりません。

私は大の子ども好きです。子どもは無邪気(邪気が無い)とはよく言ったもので、子どもとおはなししたり遊んだりしていると心身が雲一つない晴天のようになってくるのです。小学校5,6年生のころから幼稚園の教諭や保母さんに憧れていました。高校1年の模試ではじめて大学の存在を知り、教師の勧めもあって理系を選択し大学受験をすることにしました。医大にも合格しましたが、東京大学理科二類に進学し、健康科学・看護学を専攻しました。行政や民間企業に進む道もありましたが、小さいころから子ども好きだったことと小児病棟での看護経験により小児家族ケア研究および教育の道に進む決断をいたしました。担当する大学院では、2014年から家族支援専門看護師の養成をおこなっています。虐待予防プロジェクトとして前述した子育てに悩む親への前向き子育てプログラムも定期的におこなっています。対象家族に深くかかわることで、暗黙知の形式知化、専門職どうしの繋がりなど、さらなる広がりや発展があります。家族を中心にすえた研究プロジェクトを今後ますます拡充していきたいと考えております。

図1 家族のセルフケア機能に働きかける看護介入・援助モデル
図2 家族エンパワメントモデル(FA:家族内調整、SS専門職者との関わり、SP:社会行政との関わり)

略歴

学歴

1997年4月 東京大学教養学部理科2類 入学
2001年3月 東京大学医学部健康科学・看護学科 卒業
2004年3月 東京大学医学系研究科修士課程 修了
2007年3月 東京大学医学系研究科博士課程 修了

職歴

2002年4月- 2003年3月 国家公務員共済組合連合会虎の門病院小児科病棟(看護師)
2004年3月- 2006年6月 東京都認証保育所品川保育園(看護師)
2007年4月- 2007年11月 筑波大学附属病院E600小児科病棟(看護師)
2007年12月- 2012年11月 筑波大学大学院人間総合科学研究科 小児保健看護学 助教
2012年12月 筑波大学医学医療系 保健医療学域 小児発達看護学 准教授
2017年4月- 現在 筑波大学医学医療系 発達支援看護学 准教授

学会役職

学会名 役割 時期
日本看護科学学会 学術集会実行委員 2006
研究・学術推進委員 2023-現在
表彰論文選考委員 2023-現在
代議員 2022-現在
日本重症心身障害学会 学会誌専任査読員 2011-現在
学会誌編集委員 2018-現在
日本家族看護学会 学術集会実行委員 2012
学会誌専任査読員 2014-現在
評議員 2019-現在
研究奨励賞選考委員 2019-現在
実践促進委員 2022-現在
日本小児保健協会学会 学会誌専任査読員 2012-現在
学術集会プログラム委員 2017
日本小児看護学会 評議員 2021-現在
研究奨励賞選考委員 2022-現在
日本小児がん看護学会 評議員 2020-現在
学術推進委員 2021-現在
日本外来小児科学会 学会誌編集委員 2006-現在
代議員 2016-現在
学術集会実行委員長
@東京国際フォーラム
2017-2018
(2018年8月開催)
理事 2020-現在