遠隔診療やリモートケアに関する実態調査ならびに実装研究
Ⅰ遠隔診療に関する実態
2020年に始まった新型コロナウイルス感染症の拡大を機に、いわゆる「オンライン診療」が日本でも脚光を浴びている。「オンライン診療」は、パソコンやスマートフォンなどの情報通信機器を通して医師が患者の診療や診断を行い、診断結果の伝達や薬剤の処方をリアルタイムで行う医師一患者間 (D to P) の医療行為をさす。
オンライン診療のメリットとして、患者にとっては通院時間の節約、患者の身体状況や通院時の悪天候などの外出が困難な場合でも受診可能であることなどがあり、医師にとっても継続的に患者の状態を把握することが可能なことなどが挙げられている。他方、デメリットとして、画面を通じての診療であるため、対面診療に比べて病状の見落としや誤診の可能性が高いなどが指摘されている。
わが国では 2018年 4月にはオンライン診療料、オンライン医学管理料等 4項目が診療報酬として新設され、2019年の指針改訂では患者が看護師といる場合(D to P with N) のオンライン診療などがその形態として新たに位置付けられている。そしてオンライン診療は 2022年度から恒久的に認める規制改革実施計画が 2021年 6月 18日に閣議決定されるに至った。オンライン診療の活用にあたり、患者・医療従事者双方の安全、安心を確保しつつ継続的な医療を提供することは、重要なテーマである。
これまでも多くの研究班でまなび、調査し、研究知見を得てきた1)-10)が、今後の我が国の超少子高齢化社会を見据え、たとえば『在宅でオンライン診療を利用する患者に介在する訪問看護師(D to P with N)の役割とは何であるか』について、訪問看護師の視座や行為に着目しつつ、オンライン診療を利用する患者に介在する訪問看護師が具体的にどのように患者、家族への支援を在宅で行なっているのか、どのように医師の診療の補助を行い、患者の効果的な受診を寄与しているのかを、エスノグラフィーとインタビューによるデータ収集法を用いて、明らかにしたい。
1) Sugawara Y, Hirakawa Y, Iwagami M, Kuroki H, Mitani S, Inagaki A, Ohashi H, Kubota M, Koike S, Wakimizu R, Nangaku M. Issues in the Adoption of Online Medical Care: Cross-Sectional Questionnaire Survey. J Med Internet Res. 2024 Nov 1;26:e64159. doi: 10.2196/64159. Erratum in: J Med Internet Res. 2024 Nov 27;26:e68439. doi: 10.2196/68439. PMID: 39486019; PMCID: PMC11568393.
2) Wakimizu R, Kuroki H, Ohbayashi K, Ohashi H, Yamaoka K, Sonoda A, Muto S. Perceptions and Attitudes Toward Telemedicine by Clinicians and Patients in Japan During the COVID-19 Pandemic. Telemed Rep. 2021 Jul 19;2(1):197-204. doi: 10.1089/tmr.2021.0012. PMID: 35720764; PMCID: PMC8812287. Wakimizu R, Kuroki H, Ohbayashi K, Ohashi H, Yamaoka K, Sonoda A, Muto S. Perceptions and Attitudes Toward Telemedicine by Clinicians and Patients in Japan During the COVID-19 Pandemic. Telemed Rep. 2021 Jul 19;2(1):197-204. doi: 10.1089/tmr.2021.0012. PMID: 35720764; PMCID: PMC8812287.
3) 涌水 理恵. オンライン診療に望まれる多職種の関わり 利用者および家族へのインタビュー調査から. 日本小児救急医学会雑誌, 22巻2号, Page210, 2023.
4) 涌水 理恵. オンライン診療の実際 オンライン診療における多職種の役割. 小児内科, 54巻12号, Page1991-1994, 2022.
5) 武藤 真祐, 黒木 春郎, 涌水 理恵, 大林 克巳, 園田 愛, 大橋 博樹, 山岡 和枝. 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえたオンライン診療の対応やその影響についてのWEBアンケート調査研究 医師と患者の視点から. 日本遠隔医療学会雑誌, 18巻1号, Page2-16, 2022.
6) 涌水 理恵.【小児看護とICT 遠隔で行う看護実践と教育】ICTを用いた子どもへの実践 オンラインによる小児科診療の実態と看護師の役割. 小児看護, 44巻9号, Page1138-1147, 2021.
7) 涌水 理恵, 黒木 春郎, 大林 克巳, 山岡 和枝, 大橋 博樹, 武藤 真祐. 新型コロナウイルス感染症の感染拡大下におけるオンライン診療に関しての医師および患者の捉え方. Precision Medicine, 4巻6号, Page569-575, 2021.
8) 涌水 理恵, 齋藤 佑見子, 望月 梢絵, 黒木 春郎. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大状況下で小児科クリニックをかかりつけ医とする子どもの主養育者のオンライン診療に対する意識調査. 日本看護研究学会雑誌, 44巻1号, Page25-38, 2021.
9) 涌水 理恵.【オンライン診療はいま】オンライン診療を受診する小児の家族の体験 主たる養育者への半構造化面接法による調査研究から. 小児科臨床, 73巻6号, Page821-827, 2020.
10) 佐々木 実輝子, 涌水 理恵, 山口 慶子, 黒木 春郎. 子どもの主たる養育者が感じる、対面診療と比較したオンライン診療の特徴. 外来小児科, 22巻1号, Page2-11, 2019.
Ⅱ障害児をケアする家族のエンパワメントを促進するリモートケアシステム
介護や看病、療育が必要な家族や近親者を無償でサポートする人達のことを‘ケアラー’といいます。社会資源を活用せずに在宅療養を継続することはケアラーにとって過度の負担となります。ケアラーが自分たちの生活を調整し力をつけることを家族エンパワメントといいます。当該家族のエンパワメント促進のためにはケアラーの介護負担感の軽減、社会資源の活用についての有能感、が不可欠であることが示されています。
当該家族を社会的に孤立させずエンパワメントしていくためには、医療ケア児の在宅移行後、なるべく早期に当該児に関わる全ケアラーが、「私的」な空間からアクセスできるリモートケアシステム(具体的には、①家族エンパワメントプログラムが受けられる、②専門職へ個別相談ができる、③同様の悩みを有す立場の類似したケアラー達とおしゃべりや情報交換ができる、等サービスシステムやコミュニティとの繋がりに着目したこれまでにない支援)を導入します。
①家族エンパワメントプログラム
- 週に1回(全4回)のオンラインプログラム
- 専門職(ファシリテーター)常駐
- 自身や家族の生活、ケアの現状を客観的に捉え、将来に向けて、ケア負担や社会資源の活用状況を整えることができます
具体的な内容
- 全4回を通してテキストを使用
- グループワークやホームワークにて、エコマップや生活表を作成
第1回 お子さんとご家族を取り巻く現状を知る
第2回 お子さんとご家族の実際の生活を振り返り、希望する生活を明らかにする
第3回 お子さんとご家族の希望する生活に向けて目標を立てる
第4回 これまでのグループワークを振り返る
②オンライン個別相談
「私的」な空間から個別に気になることをCNS(Certified Nurse Specialist; 専門看護師)ほか、医療・教育・社会福祉の専門職に相談できる場を設けます。24時間365日受け付ける相談内容に応じた専門職者をケア管理センターのスタッフが人選し、日時調整の上、当該専門職者が直接登録者からの相談を受けます。
③SHGおしゃべりピアサロン
- 「母親会」「父親会」「きょうだい会」「祖父母会」などのクラスを定期開催
- 立場を同じくするケアラー達とオンラインでおしゃべり
- 専門職(ファシリテーター)常駐
- 悩みや情報の共有ができます
SHGおしゃべりピアサロンでは既存の親の会やきょうだい会の協力も得ながら、「母親会」「父親会」「きょうだい会」「祖父母会」など立場を同じくするケアラー達とおしゃべりし、悩み相談や情報交換ができる場を設けます。
専門職(※)の皆様へ リモートケアシステムの社会実装にあたってサポーター登録のお願い
リモートケアシステムでは、ケアラーの負担感と困難感を軽減させること、また、ケアラーとかかわる専門職を教育・啓発する目的で、①家族エンパワメントプログラム、②専門職へのオンライン個別相談、③SHGおしゃべりピアサロンの場の提供を柱とした国内初のリモートケアシステムの社会実装を行います。
当リモートケアシステムに関心のあるかたには、Eラーニング研修動画の視聴とテスト受験(5問)後、サポーターとして登録していただき、ケアシステム内での活動をお願いしたいです。
(※)当該児者および当該家族と常日頃からかかわりのある医療職・介護職・教育職・行政の福祉担当者 等
障害と病気のある家族の介護者のためのリモートケアプロジェクト