在宅重症児を養育する家族のFamily Empowermentについて
重症心身障害児(以下、重症児)は、 重度の肢体不自由と知的障害が重複した状態にある子どもであり、我が国では約36,000人の重症児のうち約7割が家族とともに地域で在宅生活を送っている1)。医療技術の発展や在宅医療を促進する社会の流れを受け、在宅生活を送る重症心身障害児(以下、在宅重症児)の数は近年増加傾向にある2)。こうした在宅重症児の療育を支える仕組みは、2013年4月より施行された障害者総合支援法に基づき 障害福祉サービスや地域生活支援事業として各地域で様々な取り組みがなされている3~5)。在宅重症児の療育は、日常生活ケアから医療的ケアまで幅広く、福祉・医療・教育・地域などの多分野における専門職がそれぞれの専門性を発揮し、多職種連携により在宅重症児家族を支えることが重要である6~8)。近年の研究動向を検討した先行研究によると、支援制度の整備によって養育者が在宅重症児の療育に前向きに取り組める状況につながったことが報告されており9)、支援制度の整備が在宅重症児家族の療育生活に大きな影響を与えたと考えられる。
私たちは数年前、在宅重症心身障害児の家族エンパワメントに関する実証的モデルの構築を目的として、全国の1,659の当該家族から無記名自記式質問紙票の回収をおこない、共分散構造分析により実証的モデルを同定した10)(下図)。家族エンパワメントは『社会資源の活用』と『主養育者の介護負担感』、『訪問サービス利用時間』『支援機関数』『年収』により規定され、『社会資源の活用』には『支援機関数』と『訪問サービス利用時間』と「通所系サービス利用時間」と「主養育者の学歴」が、『介護負担感』には「主養育者の中途覚醒頻度」と「支援者人数」と「家族内のきずな」が関与していた。つまり、年収が高く、支援機関が多く、社会資源の活用をしていて、訪問サービスの利用時間が長く、介護負担感が低いと、家族エンパワメントが高いことが明らかになった。支援機関が多く、通所系サービスおよび訪問サービスの利用時間が長く、学歴が高いと、社会資源を活用できていた。一方、重症度スコアが高いと、夜間の中途覚醒の頻度が上がり、介護負担感が増し、家族のきずなが強く、支援者が多いと、介護負担感が軽減していた。これら研究知見を活かして当該家族もしくは支援する専門職種への啓発を進めて参る所存です。
1) 岡田喜篤.重症心身障害児の歴史.小児看護24:1082-9.2001.
2) 江草安彦監修. 重症心身障害療育マニュアル第2版. 東京 : 医歯薬出版, 2005 : 284.
3) 光真坊浩史. 重症心身障害児(者)福祉の現状と今後の展望 児童福祉法改正がもたらす影響 児童福祉法等の改正と今後の重症心身障害児(者)施策. 医療66:498-502.2012.
4) 高嵜瑞貴ら. 八王子市における相談支援専門員の現状と問題点 アンケート調査でわかったこと. 日重障誌42:399-404.2017.
5) 平野恵利子ら. 重症心身障害児者短期入所の施設種別利用実態 医療型短期入所事業所の全国調査から. 厚生の指標65:38-45.2018.
6) 田中千鶴子ら. 医療的ケアの必要な重症心身障害児(者)と家族が求める在宅支援の現状と課題(第1報) 横浜市におけるサービス利用の調査から. 日重障誌36 : 131-40.2011.
7) 高木園美ら. 在宅重症心身障害児(者)主介護者のレスパイトサービスに対するニーズ. 富山大学看護学会誌14:145-58.2014.
8) 工藤恭子. 在宅重症心身障害児の遊びの保障における医療・福祉・教育の連携 遊びで支援を行う専門職へのインタビューから. 佛教大学大学院紀要46 : 31-48.2018.
9) 横関恵美子ら. 医療的ケアが必要な子どもを在宅で養育する家族に関する文献検討 2013以降. 四国大学紀要47 : 79-86.2016.
10) 涌水理恵、藤岡寛、西垣佳織、松澤明美、岩田直子、岸野美由紀、山口慶子、佐々木実輝子. 在宅重症心身障害児の家族エンパワメンㇳに関する実証的モデルの構築. 小児保健研究, 77(5), pp.423-432. 2018《公益財団法人日本小児保健協会 優秀研究賞 受賞論文》