家族エンパワメントプログラムの開発と活用について

Fenton(1989)は、障害児を在宅で養育する家族の社会的孤立の諸要素を示し、相談相手の少ない中での育児不安、健常児や異なる障害をもつ児の母親との気持ちの隔たり、社会の目に対する気兼ねや罪悪感などが、地域社会からの孤立を招くと報告し1)、Oliver(1986)は、家族のエンパワメントに貢献するために「障害」を個人モデルから社会モデルへと移行させる必要性を唱え、障害を①本人の悲劇ではなく社会的疎外の要因へ、②本人の問題ではなく社会のもつ課題へ、③個人の治療に留まらず社会で包み込む環境作りへ、④医療優先からセルフヘルプの重視へ、⑤訓練優先から経験尊重へ、⑥本人の適応のみではなく社会の意識変革へ、と視点を移行させることが重要であると示唆しています2)。そしてCunninghamとDavis(1985)は、専門家主導の情報提供ではなく、障害児を養育する家族同士が対等に相互の知識・経験を共有する消費者モデルの視点が必要だと主張しております3)。このように同じ境遇にある重症児の家族が相互に交流し、助け合う環境を有することは、彼らの在宅療養に資するといえます。

子どもを養育する家族が在宅ケアを継続しながら生活を存続していくために、自分たち家族の生活を自分たちで適切にコントロールし、社会資源を活用しながら、専門職者等と協働していく力、すなわち家族エンパワメントの充実が重要になります。

ここ10年間で、筑波大学、東京大学、聖路加国際大学、茨城県立医療大学、茨城キリスト教大学、筑波大学附属病院に所属する研究者や臨床家らが研究チームを形成し、家族エンパワメントを高めるための当事者参加型のプログラム『家族エンパワメントプログラム』を開発しました。プログラムはグループ形式で計4回のセッションで構成され、グループワークやホームワークにて、エコマップや生活表を作成し、自らの現在の生活状況を俯瞰し、参加する仲間の生活状況や活用資源等も参考にしながら、自らの生活課題を整理・把握し、希望する生活への目標を設定し、目標に向けてできることから実行してもらうプログラムになります。2020年に試行したプレテストプログラムでは参加家族らはそれぞれに生活調整や社会資源利用に関して行動を起こすことができており、J-FES得点もプログラム前後で有意に増加していました(Wakimizu et al, 2022)。

2021年7月より、下記チラシのとおり、オンラインでの『家族エンパワメントプログラム』が実施され、全国津々浦々計60名のご家族のみなさまへお届けしました。参加してくださったご家族のみなさま、ありがとうございました。今後とも定期的にぜひともご活用ください。また地方公共団体やNPOなどでどんなプログラムなのか現物閲覧を希望される場合、以下のフォームからお問い合わせくだされば、着払いにてファシリテータブックや参加者用テキストを希望部数分お送りすることもできます。ご希望の場合には、ご連絡ください。

2022年4月より、基盤研究A「障害児をケアする家族のエンパワメントを促進するリモートケアシステムの構築と検証(研究代表者 涌水理恵)」が始動し、2023年4月より、『家族エンパワメントプログラム』も含んだリモートケアシステムの運用が再びはじまります。楽しみにお待ちいただければ幸いです。

1) Fenton M. Passivity to empowerment. 85, London: RADAR, 1989.
2) Oliver M. Understanding disability from theory to practice. 30-42, London: Macmillan Press, 1986.
3) Cunningham C, & Davis H. Working with parents: frameworks for collaboration. 10-17, Buckingham: Open University Press, 1985.
4) Wakimizu R, Fujioka H, Nishigaki K, Sato I, Iwata N, Matsuzawa A. Development of family empowerment program for caregivers of children with disabilities at home: Interim report up to ‘Implementation of pretesting’. Journal of International Nursing Research 1: e2021-0004. 2022  https://doi.org/10.53044/jinr.2021-0004

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