プレパレーションについて
子どもの医療処置へのストレスを緩和するために
・まだ幼い子ども、といっても成長発達のスピードは個々人でばらつきがありますが、それぞれの認知発達に応じた方法で病気・入院・手術・検査等の説明を行い、子どもや親の対処能力を引き出すような環境および機会を与えることを、欧米ではpsychological preparation(以下、プレパレーション)と定義しています (Platt,1959;American Academy of Pediatrics,1971;American Academy of Pediatrics,1978)。
・プレパレーションを行うにあたっては、①子どもに嘘のない情報を伝える、②子どもの情緒的表出を後押しする(双方向性)、③子どもと家族、病院スタッフとの信頼関係が構築されている、の三要素が重要であるといわれています(Vernon et al,1965)。
プレパレーション遂行上の要素と遂行する上で気を付けたいこと
・欧米では、就学前の子どもたちにプレパレーションは不可避とされ、Child Life Specialist やHospital Play Specialist、医師や看護師と協力して、入院し手術を受ける子どもと両親にプレパレーションを提供するのが通常とされます(Crocker,1974;Azarnoff & Flegal,1975; American Academy of Pediatrics,2000)。
・手術に関するプレパレーションとしては、本・パンフレット・紙芝居・人形劇・VTRなど視覚的情報提供ツールのほかに、おもちゃ、実際の医療器具など現実的なツールを用いた遊びのプログラムや手術室体験ツアーといった工夫を凝らした術前オリエンテーションが試みられてきました(Johnson,1974;Wolfer & Visintainer,1975;Pinto & Hollandsworth,1989;Manworren & Woodring,1998)。目で見て、聞いて、触って、感じて、匂いを嗅いで、体験した記憶を1つずつ確認しながら、近いうち来るであろう手術について安心できる簡単で具体的な説明をし、子どもの対処能力や情緒反応を促すことが重要と考えられています(Fassler,1980;Petrillo & Sanger,1980;Thompson & Stanford,1981;Kain et al., 1998)。
・プレパレーションには手に直接とって遊べるような小道具、視覚に訴える模型や絵などのツールを使うべきとされ、子ども個々の認知発達に応じて“個別に”プレパレーションを行うべきと言われています。
・子どもと親の不安に関する「伝播仮説」(contagion hypothesis)により、プレパレーションを行う対象を子どもだけに絞らず親にも参加してもらうことで、子どもの心理的混乱やnegative behavioral changesがより一層軽減され、親の不安も軽減されることが報告されています(Skipper & Leonard,1968;Wolfer & Visintainer,1975;Kain et al,2002) 。
プレパレーションの適用とディストラクション
American Academy of Pediatrics(1971)はプレパレーションの適用として、幼児期(3歳以上)を掲げており、その理由として、
• 対象の永続性という概念を持つ
• シンボル化が可能
• 対象や出来事の概念を保持し想起する能力が高まる
(Piaget,1964/1968)
• 時間の知覚→未来のために今の満足を我慢できる
• 感情表現や会話能力→説明を理解し、感情を表出できる
(Erickson,1958)
を挙げています。3歳といっても成長発達のスピードは個々人でばらつきがありますので、それぞれの認知発達に応じた方法で病気・入院・手術・検査等の説明を行い、子どもや親の対処能力を引き出すような環境および機会を与えることこそ大切です。プレパレーションを遂行することができない乳児~幼児期前期にかけてはディストラクション(気そらし)が有効です。
プレパレーションのガイドライン
1. 小児と両親の双方がプレパレーション過程に加わるべきである
2. 情報は小児の認知能力に合わせて提供されるべきである
3. 小児が経験すると思われる感覚に力点が置かれるべきである
4. 小児と両親はプレパレーション過程全体を通じて自分の情動を表出するよう励まされるべきである
5. この過程は、プレパレーションを行う人と家族との信頼関係の発展をもたらすべきである
6. 小児と両親は入院中に、緊張の強いあらゆる時点で、そうした信頼をおいている人から支援を受けるべきである
(Thompson,R.H.,Stanford,G., 小林登監訳:病院におけるチャイルドライフ;子どもの心を支える“遊び”プログラム、p157、 中央法規出版、2000)
2,3について補足しますと、プレパレーションでは子どもに “2つの情報” を提供する必要があります。1つ目は『手続き的な情報』で、たとえば手術でしたら自分を基準にものごとが進んでいく順序(自分が、手術室に入って⇒ベッドに横になって⇒麻酔用のマスクを着けて⇒深呼吸を繰り返して⇒寝る⇒目覚めたらICUに居てる)を子ども自身が子どもなりに知っておくことが重要です。2つ目が『感覚的な情報』で、ピリッとする、ヒヤッとする、チクッとする、熱くなる、臭いなどの情報を『手続き的な情報』とあわせてあらかじめ知っておいてもらうことが子どもの心理的準備を促進するためには役立ちます。参考記事も併せてお読みください。